羽やすめ文庫
青の邂逅

青の邂逅

2024.06.12
読みもの/

少し前。
季節は春。
事務所の螺旋階段に、一羽の鳥が降り立った。

窓から見える山の木々が萌黄色に染まり、
南から渡ってきたツバメたちが
風を切るように虫を追いかけ始める頃、
遠くの方から転がるような高い音が響いてきた。

この辺りにもいるんだなと、
パソコンを操作しながら
その姿を想像して、ひとり心が踊る。

その声を聞くことが
日々の楽しみになっていたある日、
カンカン、と螺旋階段に何かが当たる音がした。
ん?と思った矢先、あの澄んだ音が響き出す。

‥‥‥いる!絶対にいる!
居ても立っても居られなくなり、
野路さんを道連れに近くの窓をそおっと開ける。
キュキュ、と立った擦れる音に
焦りと祈りを抱きながら、
30センチほど開いた窓から螺旋階段を覗き見た。

その支柱に、青い鳥が立っていた。
ここから3mも離れていない。
赤褐色の腹部に、群青色の体が映える。
姿勢良く胸を張り、
陽の光で一層鮮やかな存在感を放つ彼は
間違いなくイソヒヨドリだった。
誇らしげな目と目が合うと、
彼は颯爽と飛び立っていった。

束の間の邂逅。

青い鳥に出会うと、
その日が急に「いい日」に変わる。
オナガ、ルリビタキ、イソヒヨドリ‥‥‥。
青は私の好きな色で、
彼らと滅多に会えないからというのもあるけれど、
一番の理由はたぶん、幸せの『青い鳥』の物語だ。

そんな話をしながら、
二人とも興奮覚めやらぬまま机へ戻り
しばらく青の余韻に浸った。

  • 文:亀井夢乃