昨年11月の初め。
毎年、鯖江市の河和田町で開催されている
ものづくりイベント「RENEW」へ行きました。
今年は友人と一緒に2日間、いくつかの工房見学と
河和田と今立の「まち/ひと/しごと」
越前和紙職人の方々の企画展「閃」
「TAKEO PAPER SHOW」を巡りました。
1日目は発達した雨雲の影響で、
道路が川みたいになるくらい土砂降りの中を
靴とズボンの半分をべたべたにして
わーわー笑いながら歩いたことも
忘れられない思い出です。
車を停めて必死で歩いた後、
目当ての工房の目の前に駐車場を発見したのも
忘れられない瞬間でした。
そんな状態でも子どもみたいに
一緒に笑って楽しんでくれる存在がいるのは
稀有なことだなぁ、とか思ったりしました。
有難いです。
そんなこともありつつ
驚いて、感動して、楽しんだ2日間。
その中で今日綴るのは
RENEWでお肉を切った話です。
1日目の土砂降りが嘘みたいな、青空の2日目。
二人で龍泉刃物さんへ行きました。
友人と偶然龍泉刃物さんの横を通ったとき、
「ここお父さんの会社」
と言われて二度見したのは2年くらい前のこと。
去年のRENEWでは時間が足りなくて行けなかった、
楽しみにしていた場所。
その日は福井のフレンチ「L’aisance」さんとの
ポップアップレストランの開催日。
龍泉刃物さんのカトラリーを使って、
フレンチを楽しむことに。
やや緊張しながら席に着いたあと、
さっそくカトラリーを選びます。
スタッフの方が持ってきたのは
木の箱にずらりと並んだ様々なステーキナイフ。
流線形が美しいアシンメトリーな一本を選びました。
以前参加した「越前鯖江デザイン経営スクール」で
制作秘話や想いを聞いてから
使ってみたいなと思っていた一本。

揃いのフォークと並べてみると、
シャキッと背筋が伸びる思い。
これまで使ったことのあるステーキナイフとは
全然表情の違うナイフ。
ギザギザのない、
スラリと伸びる曲線の刃。
ステーキといえば
ギザギザの刃を前後に揺らしながら
お肉を切るイメージが強かったけれど、
ギコギコせずにスッと切った方が
お肉の断面が滑らかになって
口当たり良く、美味しく感じられるそう。
刃の表面には水面に広がる雨の波紋のような、
虹色に反射する油面に落ちた水滴のゆらぎのような
独特なダマスカス模様が光ります。
何層にも重ねた鋼を研磨することで
浮かび上がってくる模様だそうです。
友人から刃物のことを教えてもらいながら、
早く使ってみたくて待ち遠しくて、
高まるソワソワ感。

せっかくなので料理のことも。
・若狭牛の炭火焼きステーキ
越前海岸の百笑の塩とバルサミコソース
・九頭竜舞茸と平茸の冷製アヒージョ
・スモークサーモンとポテトサラダ
・ハーブ香る野菜のトマト煮込みラタトゥイユ
・アヴォロンテのバゲット
どれもこれも本当に美味しかった!
ハーブとバルサミコソースで食べるお肉は最高。
家族を誘って、今度はお店へ食べに行きたいです。
話は戻り、
初めて使う龍泉刃物さんのステーキナイフ。
思わず「うわっ」と感動で声が出る。
軽く引くだけで、スッとお肉に入る切れ味の良さ。
途切れることなく食事を楽しめる感じ。
ステーキハウスに行ったとき、
お肉はすごく美味しくて幸せなのだけれど
柔らかいはずなのに、切りにくい部分もあって
ナイフをギコギコした瞬間を
ちょっと微妙に感じたことを思い出しました。
それが全くなくて
ストレスなく、ずっと美味しい。
カトラリーが変わるだけで、
こんなに食事の体験が変わるんだと
驚きと発見のある時間でした。
本当に切れ味がよくて、その時間が楽しくて、
ステーキも残り少なくなった頃、
「もっと切りたい」と呟いた私に
「妖刀に取り憑かれた人みたい」と笑う友人。
私もやっと言った言葉が持つ意味を理解して、
笑って弁明せずにはいられませんでした。
人斬りの衝動はないけれど、
いくつかの作品で目にしたキャラクターたちは
こんな気持ちだったのかも、と少しばかり思い、
改めて職人さんの凄さを体感した瞬間でした。
本当にナチュラルに口から出た。
帰り道、友人が車を運転しながら
「うちの刃物が一番切れ味がいいと思ってる」と、
誇らしげに言ったことがとても嬉しかった。
そんな姿を見て、実際に刃物を使ってみて、
もっと多くの人に使ってほしいと思いました。
その思いを実現する一つがデザインなんだ、とも。
そんな仕事に自分は就いているんだと、
ちょっと震えるような感覚がしました。
手段にちゃんと目的がついてきて、
デザインの仕事が「わたくしごと」になった感じ。
誰かの力になれるようなデザインを作るために
身につけるべきことはたくさんあるけれど、
これからもひとつずつ頑張ろうと、
改めて気が引き締まる2日間でした。